日月潭風景管理処
所在地:台湾南投縣
用途:風景管理処、ビジターセンター
敷地面積:33,340㎡
延床面積:6,781.21㎡
構造:RC造、一部プレストレスコンクリート造
階数:地上2階
竣工:2010年
写真:Anew Chen
2011年 台灣建築奬首奬
この計画は、2003年に台湾で開催された地形系列(Land form series)と呼ばれた国際コンペで一等を得て実現した、日月潭向山地区における政府観光局の風景管理処の計画である。日月潭は、東洋的な静けさをたたえた湖で台湾有数の観光地となっている。この計画は、ここを訪れる国内外の観光客の受け皿となるヴィジターセンターと、観光局の入るオフィスのふたつのウィングから成り立っている。
設計にあたっての基本方針は、この計画が周囲の景観を壊すことなく、建築と自然環境との共生の新しい手本となるような関係性を提示することであり、敷地の潜在的な長所をいかに引き出して、それを増幅させるかということだった。建築と地形の関係については古来、建築物は、地形の“上”に建てられることが多かったが、カッパドキアの初期キリスト教修道院や黄河流域のヤオトン集落のように地形の中に空間を削り取って造られたものもある。このように歴史的に見れば建築と地形の関係には様々で豊かな文化を見出すことができるにもかかわらず、20世紀の建築は機能性を最優先するあまり、地形との関係や建築の自己変形能力と言ったものにあまり注意を払ってこなかった。このために建築に都合のいいように美しい谷は埋められ起伏を持つ大地は削り取られてしまった。ここでは残土の処理も含めて建築と大地の関係を新たに見直そうと考え、基礎工事によって発生する土壌は処分せずに建築と合体させて計画に生かすことにした。建築に自己変形能力をもたせることにより概念上柔らかな建築のヴォリュームと土壌とは合体して半建築・半地形のアマルガムとなった。湖を望む建築を作るためにはどうしても大きな建築のマッスが湖と内陸の間に立ちはだかることになり、これが湖と内陸部分を分断してしまう。導入のし方は、敷地を最大限に活かすためにいったん内陸に深く入り、そこから湖に向けて二つのアーチをくぐって湖とつながるように考えている。また半建築・半地形のアマルガムによって地形と建築を連続的に、そして一体的にデザインした。アーチと湖の間に設けられた水盤は、敷地が湾奥部に位置するためやや湖への視覚が狭くまた遠く感じられていたのをより近いものに変えている。こうして、既存の地形面、周辺の山とつながる樹海の連続面と、禅的な静けさをたたえる湖水面の三つの面の流れはこの建物のもとに統合されて、人間と自然の対話をもたらすための新しい地形の舞台となっている。